「会社を元気にする」 というセミナーに、何回か参加してみた。
どのセミナーも士気を高めると言って、小さな幸せを積み重ねるとか、
仕事は苦しいという概 念を捨てるとか、プラスの思 考 法が提 示されていた。
そして、参 加 者の多くが 「私たちにもできる」 と明るい表情になっていた。
私はというと、明るい表情にはならなかった。なぜなら、
▪ このやり方で、本当にうまく行くのか?
▪ 最 初はうまく行ったとしても、息切れしてしまうんじゃないか?
▪ 不平や不満といったマイナスのことが言えない組織は、士気が下がるんじゃないか?
と、批 判 的なことばかり頭に浮かんだからだ。
そして、本コラムで繰り返してきた次の3つの法則・・・
▪ プラスであろうとすることが、ストレスになる。
▪ マイナスを避けようとすると、ストレス耐性が弱くなる。
▪ マイナス思考でどん底に落ちても、継 続 的なプラス思考に繋がる。
これがそのまま会社や大学においても成り立つのではないか、ということを考えていた。
実 際、大学には色々な考え方の人がおり、プラス思考だけで進んで行くのは不 可 能だ。
問 題 点が次から次へと出て来るし、崇高な建学の精神があったとしても、つぶれるときはつぶれる。
先の講 演 会の提言をそのまま持って来ても、ほとんど役に立たないだろう。
では、どうすればよいか・・・? 私の答えははっきりしている。
『心 理 的 安 全 性』 。これが保証される組織に変えて行くところから、スタートするのだ。
上の立場の人に迎合しない。自分の考え、思うこと、そして愚痴までも気軽に発 言できる。
これが心 理 的 安 全 性だが、まずは、学内にそのようなことが行える場 所を作る。
そして、何らかの問題が生じたときは、気軽に対 話を繰り返し 、
その問題を担当する部署に、采配を任せるようにする。
上の者は権限を委譲したら、口を挟まない。トップは方針を決定したら、責 任を持つだけ・・・
このように、悪い部分を隠さずに直 視できるような組織が、成長を続けていく。
さて、この気軽な対話の重 要 性。
これは、前回紹介した 『オープンダイアローグ』 の基 本 的考え方でもある。
その際のポイントとして挙げてあるのが、次の3点。
▪ 結 論を出すために話すのではない。
▪ 話し相手を理解するための対 話を続けていく。
▪ 対話の際には 「先生」 とか 「部長」 とか呼ばないで 「さん」 付けにする。
これらは、学生や教員が相談に来たときにも役立っている。
学生、教員を変えようとしない、話を聞くだけ・・・と心掛けると、
お互いに確認できることが、少しずつ増えて行く。
それは、その人にとっては小さな一歩に過ぎないかも知れないが、
気軽にゆっくりやっていれば何とかなる・・・という柔らかな雰 囲 気が生まれてくる。
オープンダイアローグの理論や、そこで提 示されている様 々な工 夫は、
会社、大学、学生を元気にしようというときにも、そのまま使えそうだ。
そして、精神と身 体の拘束も取り除いてくれる・・・これは驚きであり、新たな発見であった。

上層部が力を持つ組織だと、不平や不満は言えない。
批判やマイナスなことも言い易くするには、輪になって対 話をする。
これも、オープンダイアローグで推奨されている工夫の1つだ。
( イラスト : 渡辺泰秀 )