パソコン、ビデオカメラ、プロジェクター、インターネット接続といったICT機器 (情報通信機器) を使用する授業は、教育の質を向上させる・・・とよく言われる。
40年以上教員を続けてきた私も、実 際そうだと思う。
しかし、大きな欠点も存在する。考える力の低下、記 憶力の減退、そして身 体性の喪失だ。
大学で数学の授業を20年担当して感じるのは、数学にICTは無用・・・ということ。
私がホワイトボードにゆっくり数式を書いていく。学生はそれをひたすら書き写す。
この昔ながらのパターンが、数学をよく理解する唯一の方 法だ。
ホワイトボードに書く内 容をプリントして渡し、あるいはプロジェクターで写し、
それを見ながら説明するという形 式だと、学生の頭には入っていかない。
頭に残すには、一 文 字一 文 字、一行一行、丁寧に書き写しながら理解するという、
ゆったりした時 間の流れが必 要になる。
ここで注目してもらいたいのは、書き写すという作業が、上半身を動かす身 体運 動だという点。
ただ、画面を注視するだけだと、頭は働かせていても身 体性は無い。
『からだで覚える』 ということが、いかに大事か・・・
と、ここまで話すと、教育実習から帰ってきたばかりのゼミの学生が、
「動画や音声を使う授業はすごく理解しやすいし、頭にも残ります」
と反 論してきた。以下、行った議論を広島弁のまんま再現する。
友末 : 理科や社会の授業じゃったらそうかも知れんけど、数学はダメよ。
学生 : でも、今のICTは数学の個別指導もやってくれるんですよ。ダメとは思わないですけど。
友末 : 問題を逸らすな! 個別指導は置いといて・・・
分かりやすかったらホントに頭に入って行くんか? そこを問題にしとるわけ。
学生 : 分かりやすくて楽しかったら、難しい数式だって、頭に入りやすくなるんじゃないですか。
友末 : そりゃ楽しかったら、そのときは頭には入るじゃろう。
でも、からだで覚えとらんかったら、その情報が必 要と言うときに、出てこんと思うんよ。
学生 : なんか、ピンときません。 そういう場 面に出くわしたことがないし・・・
友末 : これはね~、教育方 法に限る話じゃないんよ。今は、ネットやスマホで、たくさんの情報に触
れることが出 来るけど、どんな情報でもからだの奥深くに刻み込まれていなかったら、しばらくすると消えてしまう。実 際、自分がそれを感じているから言うとるんよ。
学生 : 先生がボケてきただけの話じゃないですか?
友末 : 半分は認める。でも、五 感を働かせて、自分で足を運んで、自分の目で確かめた情報を大切にすべき、ということは、分ってくれるよのう。
学生 : う~ん、半分は分かります。
友末 : マネしんさんな。いま、「スマホは1日2時間まで」 とか言って、制限を加えようとする自 治 体
が出て来たけど、僕が大賛成なのも同じ理由からなんよ。
学生 : 前からそう言っておられたのは、ゼミ生なら知ってますよ。
ネットで 「あの先生おかしい」 と叩かれてましたけど、大 丈 夫ですか?
友末 : 反 対する人が多いのは想 定内よ。でも、ネット上で再反 論することは、わしゃ~せん。
お互いにからだを持ち寄って対 面で話をするという場なら、いつでも出て行く。
学生 : なるほど。やっぱり 「からだ」 が出てきた。
友末 : そう。教育でも、スマホの問題にしても、なんでもそう。心 身 相 関という観 点が抜けたらダメ。とくに、お互いに感 情を込めながら話し合いをする、ということなんか、ひきこもりを解決しようというときにも、大きな意味を持つと思うんだけどね。