Lucky, happy and good timing! またまた、面白い本に出 合った。
集 英 社新書の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
著 者は、京都大学文 学 部出 身で文芸評論家の三宅香帆さん。
私がとくに印象に残ったのは、なぜ本を読むのか? という問いに対する回答だ。
①本で得た知識は、その時 点では役に立たなくても、いつかどこかで自分に繋がっている。
②自分に関係なさそうな知識でも「触れていける余裕」があるのが、健全な社会。
この2点には全く同感。
まず①。これは本や新聞なら可能だが、ネットでは無理だと思う。
ネットは知識というより単なる情報であり、他の知識に繋がっていくということがない。
次に、どうすれば本を読む時 間が作れるか? という問いへの回答。
③日本の長い労働時 間は、非 効 率でムダな作業を減らすと短縮できる。
④仕事を頑 張りすぎるから疲れ、燃え尽き、うつ病や精神疾患に至る。全 身全霊を止めよう。
この2点については、私が長年職場(大学)で日常的に実感してきたこと、
そして、書籍や本コラムで提唱してきたことと同じであり、激しく同意する。
ただ、④を達成するためには、どうすればよいのか・・・?
この新たな、また重要な問いかけに対する回答が提 示されていない。
ご本 人も「本書が提唱する社会の在り方は、現 時 点では絵空事」と述べておられた。
しかし、このようにはっきり書かれているところは、凄いと思う。
著 者の評論家というより、研 究 者としての視野の広さ、懐の深さというものを感じる。
しかしその一 方で・・・文系研 究 者の限界というものも、見えてしまったのだ。
どういうことかと言うと、この本の論議には『心 身 相 関』という観 点が抜けている。
おそらく著 者も、そのことは自覚していないだろう。
体育系研 究 者であれば、④の回答につながる情報として、もっと具 体 的に、
次のようなことを述べる。
▪ 力んだら負け。何事も自 然 体で行うのが良い。
▪ 100%の力ではなく8割くらいでやるときに、パフォーマンスが最 高になる。
▪ プラス思考はほどほどに。マイナス思考を受け容れる方が、ストレス耐性は高くなる。
▪ 急ぎ足の生活は、免疫機能を低下させ、がんになりやすくなる。
▪ 精神疾患は、精神よりも身 体を柔らかくすることから入ると、回 復しやすい。
そもそも体育系は「どうすれば本を読む時 間が作れるか?」という問題意識は念頭にない。
「どうすれば運 動をする時 間が作れるか?」 この問いに興味を持つ。
しかし、それは大した違いではない。ここでは、研 究分 野は違っても、
「真面目な日 本 人、もっと適 当でいいんじゃないの・・・」という、
同じ問題提 起をしていることに注目したい。
そうするとどうなるか。この本に挙げてあった100以上もの参 考文献。
体育系が読む『身 体 知』に関連する本が1冊もないことに、不 自 然さを感じるはずだ。
これはつまり「本の知識はどこかで繋がっており、今まで読まなかったジャンルに手を出す」
こう仰っておられるご本 人に、知識と体験の偏りがあることを示している。
いちゃもんを付けているのではない。その逆だ。
読書ということを切り口に、日本の労働の問 題 点を明 快に提 示された著 者が、
精神と身 体の相関性というプラトンの時 代から議論されてきた哲学的考察も加えると、
現代、そして将来の日 本 人にも好 影 響を及ぼすような凄い本ができそうな気がする。
引きこもり、登 校 拒 否、世の中の二 面 性、そして人間の死というものを肯 定 的に捉える。
そして、一日一日を淡々とあるがままに生きる日常を、良しとする。
そんな、救いの文が溢れているような続編、是非、読みたいですね。
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この本には接続詞として「そう」という語が頻 出する。そう、これは早口でしゃべっているときによく出てくる語で、若い女性は「そ」と、さらに短く言うことがある。著 者が相当なスピードで文章を書いていることが、読み取れる。